「食は〝日本の魅力〟を伝えるツール。本当の『おもてなし』を世界へー山崎寛斗さん

ひつじの仲間はここにいる

「あなたのフェイスブックを見て、この店に来ました」。

東京駅にあり、ヴィーガンラーメンを提供することでも有名な「ソラノイロ」に山崎さんとともにライターが並んでいた時のことだ。前に並んでいたマレーシア出身の女性にそう声をかけられた。ライターが尋ねてみると彼女はベジタリアン。「ラーメンとっても楽しみだわ」と嬉しそうに笑っていた。

「こんなことは頻繁にあるわけじゃないんで嬉しいですね」と山崎さん。これまで中国語を駆使して、ベジタリアン・ヴィーガン情報を国内外に発信してきた。特に今重きを置く、台湾のベジ界で知らない人はいないだろう彼はどうして中国語で発信をしているのだろう? なぜ菜食情報をなんだろう?

彼の活動の根源を聞いてみた。

(取材・写真一部 神谷真奈)

行動力のかたまり

小学・中学校と父親の仕事の都合でタイ・バンコクに移り住んだ。その影響があって、大学進学後、英語圏への留学を考えていた。その時にちょうど留学を考えている人向けのセミナーで聞いた先輩のプレゼンテーション。中国留学したその人の話はほかの人と比べても「とても濃い経験をしているな」と実感したのだ。「ちょうど日本では中国人の“爆買”が話題になっている時期。中国って一体どんな国なんだろうか、興味が湧いた」。即決で、北京への4ヶ月半の短期留学を決めた。

現地についてまず取り掛かったのが、友達作り。「留学期間は長くはない。とにかくまずは現地の友達を作って、北京語を学ぼう」。その思いから、自分の住む留学生専用の寮ではなく、現地の中国人が住む寮に侵入。自分のwechat※1のIDをありとあらゆる所に貼りまくった。そうして中国人の友達が増えたことで、言語はみるみるうちに上達。仲の良い友達が何人もできた。

北京留学時、天安門へ友達と一緒に行ったときの一枚。(山崎さんは中央)

一方、そうして現地の人と触れ合う中で感じたのは中国人の中にある微妙な日本へのイメージだ。

「反日感情を持っている人は少ないながらも、まだまだいる。でもそんな人も日本に旅行して帰ってきたら『日本のイメージが変わった』って言ってくれて。特に北京から帰ってきたあとは単純に日本の良さを伝えたいって言う気持ちが自然に溢れてきた」。

コンビニ食が”おもてなし”?

日本の大学へ帰ってきた後は英会話サークルの代表として観光ガイドをしようと部員を誘い、浅草などで“ゲリラガイド”を敢行。“Free Guide”の文字を掲げて、声をかけてくれた観光客を案内した。

大学在学時のESS活動。ガイドを通して世界各国の人と知り合えた。

その中で初めて知ったのがハラールやベジタリアンなど、食に制限を持つ人たちの存在だ。交流をするうちに一つの思いが芽生える。

「観光の大きな楽しみの1つに食がある。それなのに、日本に来て食べられるものがコンビニの梅おにぎりだけじゃ『おもてなし』ではない。どんな人が訪日しても楽しめる環境を作る必要のでは」。

大学の卒業論文では“食”の多様性が進まない現状をハラール普及という側面からまとめ上げた。

日本の文化の良さを伝えたい。その思いはきっと多くの観光客に伝わったはずだ。

卒業後はウェブ広告の会社に就職したが「日本の良さを伝えたい」という気持ちが途切れることはなく、悩む日々が続いた。そこで思い切って転職。ハラールをはじめ“食の多様性”を広めるためにコンサル事業等を行う株式会社Food Diversity Japan※2に入社した。小規模の会社で、どうしても働き方はオールラウンダーになることが求められる。企画発案、運営まで基本1人で担当し多忙を極めるが、やりがいのある仕事だ。

「僕は『日本の良いもの』を国内外に発信したい。食はその1つのツールになると信じている。プライベートでも仕事でも軸が同じなので完全に公私混同ですね(笑)」。

軸はぶらさない

最近は、海外からくる人の中でも台湾人へのアプローチが必要になるのではと考えている。「台湾の全人口の20%に当たる約500万人が日本に毎年訪れている親日国家で、台湾人の約14%はベジタリアン。つまり日本を来日する台湾のベジタリアンの数はすごい多いということに気づいて。ここに大きなチャンスがあると感じた」。

また台湾など中国系のベジタリアンは五葷(ごくん)と呼ばれるニンニク、玉ねぎ、ニラ、らっきょう、ネギを避ける食生活を実践する人も多くいるため、訪日の際のハードルはさらに高くなる。

「『言っても分からないだろうから、最初から諦める』って言う人がかなり多くて。本当に残念」。言葉の問題を含めて、様々な食生活への理解を深める必要性があると痛感する。

台湾で開いたベジオフ会にて。親交を深めることで、ベジタリアンになった文化的背景などを知ることができた。彼女らにとっても山﨑さんは訪日時における心強い味方だ。

そのため仕事ではもちろん、個人のSNSでも得意の中国語を用いて日本のベジタリアン・ヴィーガン情報を発信している。フェイスブックは累計1万7千以上の「いいね!」が集まっており、YouTubeでのチャンネル登録者数も着実に数を伸ばしている。また2018年12月には台湾のクラウドファンディングで成功を収め、東京のヴィーガンレストランをまとめたガイドブックを発刊。2019年頭には東京版の増刷、また5月には2度目のクラウドファンディングに成功して関西版ベジタリアンガイドブックの発刊も決まった。

「日本が大好きだからの言葉に限るなって(笑)。今後はその魅力を国外に発信していきたい」と、勢いはとどまることを知らない。

大成功を収めた中国のクラファン。英語版、日本語版など多言語での出版を待ちわびているとの声もある。

去年からは自身も“ゆるベジ”を実践しはじめた。「実際に当事者になることによって、日本って理解が進んでいないなって感じるし、もっと活動を加速させていきたいと感じる。今まさに関西版のガイドブックの編集作業をしているので、まずは責任感を持ってやり遂げたい。そして今年はベジタリアン向けアプリケーションの事業化に向けて尽力したい」と山崎さん。

やりたいことがたくさんある中でも「やっぱりベジと日本の良さっていうこの2つの軸はぶれないようにやっていきたい」と真剣な表情で語ってくれた。

★山崎寛斗(やまざき・ひろと)

1994年1月7日福井県生まれ。流暢な中国語を武器にYoutubeやFace BookなどのSNSを通して情報を発信し、国内外に多くのファンがいる。特に去年刊行した「東京食素!美味蔬食餐廳47選」は台湾を中心に2000部発行。趣味はギター、ベースだが「1人で気楽に音楽するのが好き」。幼少期はタイで過ごしたがタイ語は喋れない。

Face Book:@Japanese Vegetarian Restaurant

YouTube:shanqi TV

※1 中国で広く使われているSNS。日本のLINEに当たる。

※2 旧名ハラールメディアジャパン。国内外のムスリムが気持ちよく日本で過ごせるように環境を整えるため2014年に設立。現在、ベジタリアンも含めた“食の多様化”をコンセプトに飲食店や自治体等を相手にコンサルやセミナーを開いている。


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Mana Kamiya

理事特定非営利活動法人 日本ヴィーガンコミュニティ
『ひつじの。』編集長。地元新聞社の記者になったのち、オーストラリア・メルボルンに移住。現地の日本語フリーペーパ誌でフリーランスライターをしながら、レストランやカフェのアルバイト、ツアーガイドなどを経験。2018年夏に日本に帰国したのち2018年10月より再び新聞社で働き始める傍ら「多様性のある社会」の実現を目指し、いろいろなことに挑戦中。趣味はクライミング。